米国保健福祉省(HHS)、監察総監室(OIG)及びメディケア・メディケイド・サービス・センター(CMS)(以下、総称して「HHS」といいます。)は、2019年10月9日に、バリューベースの医療連携の枠組みを促進するために、連邦反キックバック法(AKS)、民事罰金法(CMP)及び医師の自己利益のための患者紹介に関する法律(スターク法)の規則の変更を提案しました。提案された改革は、バリューベースのより良い医療連携を達成するための規制上の障害を除去する目的で2018年にHHSが開始した”Regulatory Sprint to Coordinated Care”(医療連携に向けた迅速規制緩和)の一環であり、2018年6月及び8月にOIGが発出した情報提供依頼(RFI)に対するコメントに対応するものです。
新たに提案され修正されたセーフ・ハーバーの下での保護を受ける資格を得る参加者は、実質的かつ技術的な要件を満たさなければなりません。重要なのは、提案された改革の多くが、医薬品製造業者及びいわゆる“DMEPOS”(耐久性医療機器、義肢などの補綴、人工装具、装具又は消耗品)の製造業者並びにバリューベースの枠組みに利害関係を有する可能性があり又はその他の形で医療連携に貢献している業界関係者の保護を明示的に除外していることです。提案された規則は、2019年10月17日に連邦官報に掲載される予定であり、これに対するコメントの提出期限は、公表から75日後の2019年12月31日です。
提案された反キックバック法及び民事罰金法の改革:反キックバック法及び民事罰金法の改革(こちらを参照。)は、以下に説明するように、多くの既存のセーフ・ハーバーの実質的な修正とともに、いくつかの新たに提案されたセーフ・ハーバーを含みます。
反キックバック法のセーフ・ハーバー:OIGは、以下の反キックバック法上の新たなセーフ・ハーバーの採用を提案しています。
1. バリューベースの枠組みのセーフ・ハーバー:OIGは、「バリューベースの枠組み」の当事者の間で交わされる報酬を保護するために、各々が実質的な技術的要素を含む3つの新たなセーフ・ハーバーの採用を提案しています。第一のセーフ・ハーバーは、品質、健康アウトカム及び有効性を向上させる医療連携の枠組みに従って交わされるサービス及びインフラを含む一定の(金銭ではない)現物の報償を保護することになります。第二は、バリューベースの枠組みが相当な経済的リスクを生じさせる場合の現物の及び金銭的な報償に適用されることになります。第三は、全面的な経済的リスクを生じさせる場合の現物の及び金銭的な報償に適用されることになります。
重要なのは、これらの提案された「バリューベースの枠組み」のセーフ・ハーバーが、「バリューベースの事業参加者」が関与する枠組みにのみ適用されるようになることです。そして、ここでの「バリューベースの事業参加者」とは、「医薬品製造業者、DMEPOSの製造、流通若しくは販売業者、又はラボ」を除外すると定義される。OIGは、定義から薬剤給付管理(PBM)事業者、薬局、卸売業者、流通業者及び「一部又は全ての」医療機器製造業者を除外すべきかについてもコメントを求めています。OIGは、「伝統的な医療機器製造業者」が、医療連携及び管理に役割を果たすかを問うています。OIGはまた、広範すぎる「医療機器製造業者」の定義が、デジタル及び遠隔のモニタリングを提供して医療連携を支援する機器又は技術の除外につながり得るという問題を認めています。
2. 患者登録のためのツール及びサービスのセーフ・ハーバー:OIGは、対象となる患者グループに含まれる患者に対して、いわゆる「VBE(Value Based Enrollment)参加者」による「患者登録のためのツール又は支援」の(金銭ではない)現物提供に関するセーフ・ハーバーの採用を提案しています。「ツール又は支援」は、現物でなければならず、予防的なアイテム、物品若しくはサービス又は健康関連技術、患者の健康に関するモニタリングツール及びサービス若しくは健康の社会的決定要因を特定するための支援及びサービスであって、対象となる患者グループの医療連携及び管理に直接関係するものに限ります。バリューベースの枠組みのセーフ・ハーバーと同様に、患者登録のためのツールに関するセーフ・ハーバーは、「VBE参加者」の定義が狭いことから、医薬品及びDMEPOSの製造業者等には適用されないことになります。
3. メディケア・メディケイド・サービス・センター(CMS)がスポンサーするモデルのセーフ・ハーバー:OIGは、CMSがスポンサーするモデルの枠組みに関し提供される、当事者間の患者インセンティブ又は報酬を含む報酬を保護する新たなセーフ・ハーバーの採用を提案しています。このモデルは、1115Aモデル及びメディケア医療費節減分分配プログラム(MSSP)を含むものと定義されます。提案されたセーフ・ハーバーの目的は、CMSがセーフ・ハーバーによる保護を受けるべきと判断する、CMSスポンサー・モデルの参加者について、反キックバック法及び民事罰金法上のコンプライアンスを標準化し及び単純化することです。
4. サイバーセキュリティ技術及びサービスの寄付のセーフ・ハーバー:潜在的なサイバーセキュリティ上の脅威の低減のため、OIGは、「主として効果的なサイバーセキュリティを実施し及び維持するために」使用されるソフトウェア又はその他の種類の情報技術に限りサイバーセキュリティ技術の形での非金銭的な提供による寄付を保護する新たなセーフ・ハーバーの採用を提案しています。
5. アカウンタブル・ケア組織(ACO)受益者インセンティブ・プログラムのセーフ・ハーバー:OIGは、当該インセンティブ支払がメディケア医療費節減分分配プログラム(MSSP)を設立する法律の要件に合致していることを条件として、ACO受益者インセンティブ・プログラムに基づきACOによりメディケアの個別支払受益者に対し行われる一定のインセンティブ支払を「報酬」の定義から除外する新たなセーフ・ハーバーの採用を提案しています。
既存の反キックバック法に関するセーフ・ハーバーの修正:OIGはまた、反キックバック法に関する以下の既存のセーフ・ハーバーの大幅な修正を提案しています。
1. 生涯健康医療電子記録(EHR)及びサービスのセーフ・ハーバー:OIGは、一定のサイバーセキュリティ関連の技術の保護の追加、システム間の相互運用性(Interoperability)に関する条項の更新及びセーフ・ハーバーに関する既存の終了日(2021年12月31日)の撤廃のために、EHRのアイテム及びサービスに関する既存のセーフ・ハーバーの修正を提案しています。CMSは、スターク法に基づくEHRの規制上の例外について、ほとんど同じ変更を提案しました。
2. 個人サービス及び管理契約のセーフ・ハーバー:OIGは、現行の個人サービス及び管理契約に関するセーフ・ハーバーの下でアウトカムベースの支払に柔軟性を追加し及び共通のコンプライアンス上の課題を解消するために、いくつかの重要な改革を提案しています。まず、OIGは、報酬総額を事前に設定するという現行の要件を廃止し、代わりに報酬決定方法を事前に設定するという要件を設けることを提案しています。次に、OIGは、エージェントが契約上定期的に、散発的に又はパートタイムでサービスを提供する場合に契約にその日程、期間及びインターバルにかかる費用を明記しなければならないという現行の要件の廃止を提案しています。
また、OIGは、一定のアウトカムベースの支払を保護するための新たな条項の追加を提案しています。重要なのは、アウトカムベースの支払の保護が、医薬品製造業者、DMEPOSの製造業者、流通業者若しくは販売業者又はラボによる直接又は間接の支払には適用されないことです。OIGは更に、医療機器製造業者、PBM事業者、卸売業者及び流通業者を除外することも検討しています。現行の個人サービスに関するセーフ・ハーバーに基づくその他の要素は、引き続き適用されることになります。
3. 保証のセーフ・ハーバー:OIGは、保証に係る反キックバック法に関するセーフ・ハーバーの大幅な修正を提案していますが、これは、従前のOIGの勧告的意見が示唆していたように、OIGがこのセーフ・ハーバーが一定のバリューベースの枠組みについて潜在的に適切なものであると考えていることを示しているかもしれません。OIGは、製造業者及び供給者が「あるサービスが一又は複数のアイテムと組み合わせて特定のパフォーマンス・レベルに到達することを保証」できるようにするためにひとまとまりの「アイテム及びサービス」についての保証を明示的に保護するためのセーフ・ハーバーの修正を提案しています。OIGはまた、保証が複数のアイテム及び関連するサービスに適用されるものである場合、保証対象であって連邦レベルで償還可能なアイテム及びサービスについては、同じ連邦のヘルスケア・プログラムによりかつ「同じ連邦のヘルスケア・プログラムの支払において」償還されなければならないと明確化しています。保証はまた、購入者があるアイテム又はサービスを排他的に使用し又はその最小購入要件を満たすことを条件としてはなりません。
OIGは更に、購入者に適用される報告義務を受益者に適用しないこと及び一又はひとまとまりのアイテムが「(書面の)約束に定める要件を満たさない」又は「特定の期間において特定のパフォーマンス・レベルを満たす」ことにある程度依拠する修正された「保証」の定義を採用することを提案しています。OIGは、これらの条項が、枠組みがセーフ・ハーバーのその他の全ての要素を満たすことを条件として、「臨床的なアウトカムの保証を条件とする保証枠組みに保護を提供する」と明確化しています。
4. 現地交通のセーフ・ハーバー:OIGは、地方居住者が交通機関で移動できる距離を延長し及び退院したヘルスケア施設から居住地までの患者の交通機関での移動距離に対する制限を廃止するために、現地交通に関する既存のセーフ・ハーバーの修正を提案しています。OIGはまた、健康アウトカムを改善する可能性が高い革新的な枠組みを育成するためにセーフ・ハーバーを拡大できるか、及び医療上必要なアイテム又はサービスを得るため以外の目的での交通機関での移動を含めるためにセーフ・ハーバーを拡大できるかについてもコメントを求めています。
現存の民事罰金法に関するセーフ・ハーバーの修正:OIGはまた、在宅透析サービスに関連する一定のテレメディシン技術の提供のための受益者誘導の禁止に対する新たな法律上の例外を反映した新たなセーフ・ハーバーを創出するための民事罰金法規則の改正を提案しています。
スターク法の改革の提案:スターク法の改革(こちらを参照。)は、バリューベースの枠組みの新たな例外を含み、スターク法に基づく医師及び医療従事者のためのいくつかの重要な要件について新たな指針及び明確化を提供しています。これらの提案には、以下の追加及び明確化が含まれます。
1. バリューベースの枠組みのセーフ・ハーバー:CMSは、枠組みの性質及び当事者が負う経済リスクのレベルに基づく特定の要件を満たす「バリューベースの枠組み」についての3つの新たな例外の採用を提案しています。提案には、(1)「全面的な経済的リスク」、(2)医師に対する相当な経済的リスク及び(3)参加者が負う全てのレベルのリスクに関係するバリューベースの枠組みに関する例外が含まれます。反キックバック法について提案されたセーフ・ハーバーと同様、これらの提案された「バリューベースの枠組み」に関する例外は、「バリューベースの事業参加者」に関係するバリューベースの目的を有する枠組みにのみ適用されることになります。CMSは、ラボ、DMEPOSの供給者、医薬品製造業者、PBM事業者、卸売業者、流通業者、薬局及び医療機器製造業者を「バリューベースの事業参加者」の定義から除外すべきかについてコメントを求めています。CMSはまた、患者が自身の医療施設及び供給者の選択に積極的に参加することを促すために、バリューベースの枠組みに関する例外に価格透明性の要素を含めるべきかについてもコメントを求めています。
2. 商業的合理性、適正市場価額及び枠組みが紹介の量又は価額を考慮している場合についての明確化:CMSは、スターク法に基づく法的な及び規制上の例外の多くが以下の要件のうち、1、2又は全てを含むことを認めています。報酬の枠組みが商業的に合理的であること、報酬の額が適正市場価額であること及び枠組みに基づき支払われる報酬が紹介の量又は価額を考慮する方法で決定されていないこと。
CMSは、現在は定義されていない「商業的に合理的である」の定義を、枠組みが「当事者の正当な業務上の目的を促進し同様の枠組みに類似した条件であるもの」又は枠組みが「商業的に理にかなっており類似の種類及び規模の合理的な主体並びに類似の規模及び専門の合理的な医師により締結されるもの」とすることを提案しています。CMSはまた、「適正市場価額」の法的定義及び現行の例外の構成を見直しました。「適正市場価額」の定義としては、「類似の資産又はサービスの類似の当事者との類似の条件の下でのアームズ・レングスの取引における価額であって、対象となる取引の一般的な市場価額と乖離しないもの」と定義することを提案しています。「一般的な市場価額」とは、善意の交渉の結果資産に付される価格と定義されることになります。CMSは更に、枠組みが「紹介の量又は価額を考慮している」ものと理解される場合を特定するための新たなかつ明確な基準の設定を提案しています。具体的には、ある主体からある医師(又は近親者)への報酬が「紹介の量又は価額を考慮している」とされるのは、報酬の計算に使用される数式が当該主体に対する医師による紹介を変数として含み、その結果、当該主体に対する紹介の量又は価額の数と報酬の増減が正の相関を有する場合に限定します。医師(又は近親者)からのある主体への報酬については、その逆が成立することになります。
3. 医師に対する限定的な報酬のセーフ・ハーバー:CMSは、メディケア・プログラムの過剰使用又は同プログラムに対する類似の害を惹起しそうにない報酬の保護のための新たな例外の採用を提案しています。具体的には、CMSは、報酬が当事者間の紹介の量又は価額を考慮せずかつ適正市場価額を超過しないこと及び当事者間の枠組みが商業的に合理的であることを条件として、医師から主体に対するアイテム又はサービスの提供に対する当該主体から当該医師への報酬が暦年当り3,500ドルを超えない場合に関する新たな例外を提案しています。事務所又は機器のリースには、追加の要件が適用されることになります。
4. 生涯健康医療電子記録(EHR)に係るアイテム及びサービスのセーフ・ハーバー:CMSは、反キックバック法に関するセーフ・ハーバー規則を反映するようなEHRに係るアイテム及びサービスに関する既存の例外の修正を提案しています。
5. サイバーセキュリティ技術及び関連サービスのセーフ・ハーバー:CMSは、反キックバック法に関する類似のセーフ・ハーバーをほぼ反映する形で、「主として効果的なサイバーセキュリティを実施し及び維持するために」使用されるソフトウェア又はその他の類似の情報技術に限り、サイバーセキュリティ技術の形での非金銭的な報酬を保護するための新たな例外の採用を提案しています。
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