EU医療機器規制(MDR)は、特定の医療機器に対して新規制への移行期間を規定した。ただし、それらの医療機器は、その設計または意図する目的(intended purpose)に「重要な変更(significant change)」が加えられた場合、MDRに準拠する必要がある。この記事では、この「重要な変更」という用語に関する既存のガイドラインの概要を示し、EU医療機器調整グループ(MDCG)が準備する今後のガイダンスから業界が何を期待できるかについての見解を示す。
著者:Maurits JF Lugard、Josefine Sommer、Anouchka Hoffmann
MDRは、製造業者にいくつかの移行期間を提供し、ほとんどのMDR要件の遵守義務を事実上数年間先延ばししている。その結果、EU医療機器指令(Medical Devices Directive(MDD))または能動型体内埋込医療機器指令(EU Active Implantable Medical Devices Directive(AIMDD))に基づいて第三者認証機関(Notified Body)によって発行された有効な認証を取得している医療機器は、2020年5月26日のMDRの適用以降も引き続きEU市場に流通させることができる。さらに、SIDLEYが最近のアップデート(2019年12月3日付および2020年1月6日付)で報告したように、EUの立法者は、MDRに対する新旧対照表第2版(MDR新旧対照表第2版)を発表し、医療機器ソフトウェアを含む特定の医療機器に4年間の移行期間を追加した。これらの医療機器は現在クラスIに分類されているが、MDRの下ではより高いリスク・クラスに移行される。
医療機器が移行期間の恩恵を受けるには、2020年5月26日以降、該当するMDDまたはAIMDDの要件を引き続き遵守する必要がある。重要なことは、これらの医療機器の設計または意図する目的に重要な変更があってはならないことだ(MDR第120条(3))。
移行期間の恩恵を受ける医療機器製造業者にとって、「重要な変更」を構成するものは何かを理解することは重要だ。設計または意図する目的に「重要な変更」を受ける医療機器は、適用される移行期間の残存期間に関係なく、適用のあるすべてのMDR要件に準拠しなければならない。例えば:
・ 2019年7月7日にMDD基づき第三者認証機関によって発行された認証を得た医療機器は、2023年7月7日まで有効な認証を有し、2023年7月7日以降に限りMDRの製品固有の規格に準拠する必要がある。しかし、製造業者が機器の設計または意図する目的に「重要な変更」を行った場合には、このアップグレードされた医療機器はMDRに準拠する必要があるため、EU市場に流通させる前に、関連するMDR適合性評価を受けなければならない。
MDCGのガイダンス
EU医療機器調整グループ(MDCG)は、製造業者と第三者認証機関が医療機器の変更またはアップグレードが「重要な変更」を構成するかどうかを評価するのに役立つガイダンスの起草に取り組んでいる。
しかしそれが発表されるまでの間、利害関係者は、「重要な変更」の概念が将来どのように定義され得るかよりよく理解するために、既存のガイドラインについて検討することが役立つかもしれない。第三者認証機関作業グループ(Notified Body Operations Group(NBOG))は、2014年にベスト・プラクティス・ガイド(BPG)を発行した。ここでは、ある変更が、以下の項目に影響を与える可能性がある場合、当該製品の変更は「大幅な(substantial)」(つまり「重要な(significant)」)ものであると見做されるとした。
a. 必須要件への適合性および/または
b. 医療機器の臨床性能を確保するために適切であると製造業者が決めた適応症、禁忌または警告
・ また、BPGでは、特定の製品の変更(例えば材料の変更など)が「大幅な」ものか否かを判断する際の考慮事項の非網羅的な一覧を「大幅な変更」の例を示して提供している。例えば、ソフトウェアの変更においては、提供される診断または治療に影響を及ぼすようなアルゴリズムの変更は、「重大な変更」と見做される。BPGは、QMSの「大幅な変更」もその対象とする。
・ その他の国際的なガイドラインでは、「設計および意図する目的」以外の変更についても「重要な変更」という用語の範囲に含まれると考えている。例えば、International Accreditation Forum(IAF)、特に、医療機器の規制要件の遵守状況に関する決定に影響を与える可能性のある変更に言及している。IAFによると、QMSの変更は、医療機器の設計または意図する目的に影響を与える可能性がある(特殊な手順に対する重要な変更、例えば滅菌方法の変更など)。
・ NBOGおよびIAFの立場に基づくと、QMSに対する特定の変更も、MDR第120条(3)の意味において「重要な変更」と見做される可能性がある。
・ 直近では、2019年2月、4つの業界団体が共同で「MDR第120条(3)に基づく重要な変更」に関する業界方針説明書を公開した(JIP)。これらの業界団体の目的は、統一した解釈を提示することで「重要な(significant)」という用語の解釈が一致していない恐れのある第三者認証機関と製造業者に同じ高さの土俵を確保することだ。JIPは、主にBPGに基づき、5つの類型に変更を分類することを提案する。
1.意図する目的
2.設計または性能規格
3.成分または原材料
4.滅菌に影響を与える滅菌または包装設計
5.ソフトウェア
JPGによると、「重要」と考えられるソフトウェアの変更には、新しいオペレーティング・システムまたはその主要な変更、新しいアーキテクチャまたはデータベース構造もしくはそれらの変更、アルゴリズムの変更、ならびに患者に対して提供される診断または治療に影響を及ぼす新機能および新ユーザー・インターフェイスが含まれる。患者に対して提供される診断または治療に影響を及ぼさないソフトウェアの変更とは、医療に関わらない新機能、安全性リスクを生じさせないエラーの修正、セキュリティの更新(サイバー・セキュリティの強化等)、ユーザー・インターフェイスの外観および操作性の向上等を含む。
上記のガイドラインは、第三者承認機関が、いかなる変更も具体的事案に即して評価する必要があることを示す。移行期間の恩恵を受ける医療機器製造業者は、第三者認証機関が、2020年5月26日付のMDRの眼鏡で医療機器を検査するようになるということに注意しておかなければならない。変更がグレーゾーンに該当する場合は、製造業者は、第三者認証機関に相談し、その変更が「重要な」ものと考えられるのかどうか協議することを求めるだろう。