ウイルス患者の確認が拡大するにつれ、新規コロナウイルス(COVID-19)がニュースの見出しを独占し続けている。2020年3月2日の時点で、世界保健機関(WHO)は中国で80,100人を超える確定診断を報告し、その他の地域でも約8,800人となっている。このような事態の進展により、グローバル市場は急激に冷え込み、地域経済は打撃を受け、各国政府はウイルスがパンデミックに拡大するのを防ぐため劇的な措置を講じている。工場、学校およびオフィスの閉鎖、検疫および在宅の要請、旅行および輸送の制限ならびにその他の複数の措置が世界中で導入され、COVID-19の症例報告をする国が増えるにつれて必然的に拡大する。これらの対策は、消費者支出を削減し、サプライチェーンと労働力の混乱を引き起こし、エネルギー需要を減らすことになり、産業を超えビジネスに大きな影響を与える。グローバルM&A活動に対するCOVID-19の効果の全容はしばらく判明しないが、買い手および売り手はデューデリジェンスと取引交渉を続けるため、このアウトブレイクによってもたらされるリスクから自身を守るための措置を講じることができる。
この記事は、M&A取引の中で、こうした問題を貴社が克服するための一助となることを目的としている。これらの問題は、ターゲットとなる事業がアジアに拠点を置くか、アジアで重要な事業を展開している場合に現在最も深刻となるが、COVID-19が世界中に広がり続けているため、以下で説明する問題は広く関連する。
デューデリジェンス
コロナウイルスの流行の影響を最も受けている地域の多くのオフィスや工場は、閉鎖されたままであるか、稼働が制限されている。大幅な移動制限と検疫措置と相まって、対面での経営陣のプレゼンテーションと現地訪問は、特に最も被害の大きい地域においては、困難または不可能になっている。取引当事者は、それに応じて期待値と時刻枠を修正する必要がある。一方で、仮想データルームとヴィデオ会議の急増により、デューデリジェンスおよびオンライン会議は継続して進めることができる。
買い手は、ターゲット事業に対するデューデリジェンスを次の項目まで確実に広げるべきである:
・ 既存の保険契約およびその適用範囲(事業休業補償、従業員向け福利厚生プランに関連する一時的な健康および障害補償の性質と範囲も含む)
・ 事業継続計画(BCP)および危機管理手順の有効性と利用 ・ サプライチェーンのリスクおよび代替供給元の利用可能性と関連費用
・ コロナウイルス感染の大きな影響を受けた管轄区域に対する当該事業の接触の程度(主要取引先、供給元、顧客を含む)
・ 特に、特定の業界における在宅勤務導入の結果としての規制、許認可およびデータプライバシーの影響 (金融サービス等)
・ 体調不良または健康リスクの高い従業員に対応するために実施されているリスク対応手順の有効性、職場内での健康安全手順の共有と実践、関連する政府の健康ガイドラインへの適切な準拠、移動の多いまたは外国人に依存した従業員に対する旅行禁止の影響可能性
・ 従業員、訪問者、顧客の健康データの処理を可能にするための、特にEU /英国のGDPRを含む、プライバシー法の上の法的根拠およびプライバシー通知がCOVID-19の目的でのデータ処理を対象としているか否か
・ 支払い能力または継続企業リスクと債務返済能力(特に高利率債務がある場合)
・ ターゲット事業またはその取引相手が重要な契約上の義務を履行し、保留し、免れる能力、不可抗力や類似の規定の行使を含む、特に、ターゲット事業の取引相手による債務不履行が、ターゲット事業自身の別の契約上の義務違反を引き起こす結果をもたらすシナリオの調査
売り手は、これらの問題に対する買い手の懸念に備え、ターゲット事業へのコロナウイルスのアウトブレイクの現在および予想される将来の影響に関する情報および関連する影響緩和策についての情報を前もって準備する必要がある。売り手はまた、デューデリジェンスの期待を管理し、デューデリジェンスの手順の管理を手助けする第三者アドバイザーを利用するなどして、準備と組織化をしておく必要がある。コロナウイルスのアウトブレイクの影響は、ターゲット事業のさまざまな側面に影響を与え、時間と分散しがちな注意の管理に行きつく。
価格と検討
事業に対するウイルスの短期的および長期的な影響にまつわる不確実性は、事業価値評価を困難なものとする。アウトブレイクは売上高および利益の予測に負の影響を与える可能性があり、取引価値は一般に期待売上高または期待利益に基づいて評価されるため、買い手によっては、アウトブレイクに乗じてより有利な価格を維持しようという誘惑にかられるだろう。一方、アウトブレイクの影響はまだ不明であり、短期的である可能性さえあるので、売り手としては、買い手の意図に反して、アウトブレイクの影響と期間は例外的であり、事業の基礎的条件は影響を受けないという立場を取るだろう。この問題に関して交渉がどのように展開されるかはまだわからないが、主に、当該取引において相手方に対して有する当事者の交渉上の優位性や、アウトブレイクの最終的な範囲、限界、期間など、いくつかの要因の複合的な結果となるだろう。
買い手は、この環境でロックボックス方式(クロージング前に価額を決定する方式)および固定価額が大きすぎるリスクを伴うかどうかを考慮する必要がある。この点に関して、クロージング時のターゲット事業の状態を反映する買収価格を確実にするためにクロージング後の買収価格調整メカニズムを採用する傾向にある(つまり、契約署名からクロージングまでのターゲット事業のあらゆる価値の毀損を反映する)。また、買い手は、クロージング後の事業の業績に基づき、合意された目標に達するまで対価の支払いを繰り延べたり、ずらしたりするように買収価額を構成することが考えられる。取引がクロージング後の繰り延べ支払いを伴う場合、売り手は適切な監査および情報の権利、ならびに新事業主がクロージング後にターゲット事業を最適に行うことを確約させる特約を主張すべきである。しかし、売り手は、コロナウイルスのアウトブレイクの公になっている性質から今回のCOVID-19はよく知られたマーケットリスクであり、買い手が負うべき前提条件であるとして、こういった買収価額の調整や支払いメカニズムに抵抗するかもしれない。
COVID-19は、影響を受ける特定の業界、地域における事業の収益と支払い能力に引き続き影響を与えるだろう。これにより、M&A取引の買い手の買収資金の調達能力および現金準備に悪影響が及ぶ可能性がある。売り手は、相手方の信用リスクを認識し、買い手のファイナンスの実行可能性についてデューデリジェンスを実施し、買収契約の下での買い手の支払い義務の債務不履行リスクを軽減するために、エスクロー契約、親会社の保証および解約手数料等仕組みの使用も考慮すべきである。また、売り手は、補足文書を含むすべての買収資金調達関係文書を慎重に検討し、コロナウイルスのリスクが、企業買収契約自体における取り扱いとは異なることのないことを確認しなければならない。
MAC条項
買い手は、状況が著しく悪化し続ける場合に合意した取引を解除し免れることのできるMAC(material adverse change)条項が、COVID-19およびその他のパンデミックまたは感染症のリスクを対象とするよう主張するのに役立つようにと考える。しかし、このような条項の交渉は厳しいもので、買い手としては、コロナウイルスのリスクが広く公となっており、マーケット参加者にはよく知られているという事実に基づいた売り手の強烈な反発を受けると想定しておくべきだ。それでも当事者は、ターゲット事業に対するコロナウイルスの影響が、同じ産業または地域の他の事業と比べて偏りがある、または特定の重要契約に対するコロナウイルスの影響に偏りがある状況ではMAC条項を発動し得るという妥協を引き出すこともできるかもしれない。こういった折衷案(つまり、他の産業の事業者と比較して影響に偏りがある場合に限ってCOVID-19のアウトブレイクの影響を特別に対象とするもの)は企業買収契約に見られ始めている。
最終期限
ほとんどの企業買収契約には、取引が特定の日付までにClosingを完了できなかった場合に契約の解除を可能にする「drop-dead date」、「outside date」または「long stop date」条項と呼ばれる最終期限の定めが含まれている。たとえ政府および規制当局の業務が通常通りであると公表されていても、現実には、オフィスの閉鎖、在宅勤務および従業員の配置換えにより、政府および規制当局の承認その他change of control(支配権の変更)の承認または第三者の同意は、コロナウイルスの発生により影響を受けた国では通常よりも長くかかると予想すべきだ。デューデリジェンスおよび面談での打ち合わせがますます遅れ、不可能になりつつあり、クレジット市場が急速に縮小し始めていることを考えると、資金調達がより難しくなり、通常の場合よりも時間がかかる可能性がある。これらの諸事情を鑑みると、当事者はそれに応じて最終期限を調整する必要がある。急速に変化する環境を考えると、署名日からクロージングまでの超期間化は、ターゲット事業の運営に対するリスクが増大することを意味し、買い手は、前述の買収価額メカニズムやMAC条項、後述の暫定的運営特約の対象と精度などを交渉する際に、このことに注意する必要がある。当事者は、クロージングの先行条件の未達が、(たとえば中国の規制当局の承認など)高度な影響を受けた地域にのみ生じ、かつ、関連する条件を達成するために当事者が妥当な努力をしかつ努力を継続するときに限り、最終期限の自動延長条項を入れることを検討すべきである。
暫定的運営(およびその他の運営)特約
M&A取引の署名からクロージングまでの間に、買い手は通常、買収を約束した事業の価値を守るため売り手にターゲット事業を通常業務により対象事業を運営し、さまざまな重要または通常ではない事柄については、買い手に相談(および同意を取得)してもらいたい。一方、売り手にはM&A取引のClosingまでターゲット事業の所有権が残り、特にM&A取引がクロージング後の価額調整メカニズムに基づいて最終価額の決定がされる場合、売り手は該当する測定期間中に事業の価額決定リスクを引き受けることになる。したがって、売り手は、署名からクロージングまでの期間、事業を運営するために必要であると感じる措置を講じる権限を維持し、買い手の監視と干渉を最小限に抑えたいと考える。クロージング後の価額調整期間中の事業運営に対する権利についても同様である。コロナウイルスのアウトブレイクに関連する不確実性は、売り手が従業員を保護し、法的または公衆衛生の要件と命令を遵守し、この環境下で必要または賢明であると思われる他の活動に着手することができるよう、コロナウイルスの脅威に迅速に対応できるようにすることを主張(そして買い手はこれを許容)する必要があることを意味する。この点については、売り手が購入契約書に署名する前に購入者とコロナウイルスのコンティンジェンシープランを確認し、計画で概説されている活動の事前承認を得ることが有益な場合があります。コロナウイルスのアウトブレイクに関連する不確実性は、売り手が従業員を保護し、法的または公衆衛生の要件と命令を順守するために、コロナウイルスの脅威に迅速に対応できることを主張する必要があることを意味する。この環境で必要または賢明であると思われる他の活動に着手する。この点については、売り手が購入契約書に署名する前に購入者とコロナウイルスのコンティンジェンシープランを確認し、計画で概説されている活動の事前承認を得ることが有益な場合があります。コロナウイルスのアウトブレイクに関連する不確実性は、売り手が従業員を保護し、法的または公衆衛生の要件と命令を順守するために、コロナウイルスの脅威に迅速に対応できることを主張する必要があることを意味します。この環境で必要または賢明であると思われる他の活動に着手する。この点については、売り手は、買い手とともに、M&A取引契約書に署名する前に自社のコロナウイルスの緊急措置計画を確認し、当該計画に概要がしめされた活動の事前承認を得ることが有益だろう。
表明保証
買い手は、ターゲット事業の緊急手順書、緊急措置計画、事業継続性手順書およびこのような環境下で重要である他の同様の事項に関連する追加の表現保証を求めることを検討する必要がある。売り手がこのような拡大された表明保証の適用範囲に同意する場合、知識、重大性、および「適法性」という妥当な制限を要求し、将来の表明保証を避け、クロージング時における妥当な水準への「引き下げ」を主張することも公正と言える。売り手はまた、自身の表現保証を個別化して、買い手が一連の表明保証全体に渡るコロナウイルス関連の主張をすることから守ることを検討すべきだ。更に、売り手は、買い手の請求に対する十分な防御を可能とするために、ターゲット事業に対するコロナウイルスの影響および潜在的影響並びに効果および潜在的効果について開示一覧表に可能な限り開示すべきである。当事者が表明保証保険の利用を検討している場合、約款の除外事由に細心の注意を払う必要がある。コロナウイルスは既知のリスクであるため、一部の保険会社はコロナウイルス関連の損失を保険適用範囲から明確に除外し始めているからだ。
準拠法の選択
最後に、買い手および売り手は、当該契約に適用される準拠法を、慎重に注意深く選択しなければならない。さまざまな管轄区域の違いを完全に説明することはこの記事ではしないが、多くの米国の管轄区の法律は、契約条項(MAC条項など)の解釈と執行について、その他の管轄区(たとえば、中国、香港、イギリス、シンガポール等)とは異なる扱いをするであろうことに注意を払うべきだ。最終的には、コロナウイルスのアウトブレイクから生じる契約上の問題の文脈において、すべてが売り手に有利な管轄区もすべてが買い手に有利な管轄区もないのだから、当事者は利点と欠点をいずれも引き受けることになる。
この急速に展開している状況について、SidleyのM&Aおよびプライベートエクイティのグローバルチームは、アジア、米国、およびヨーロッパに拠点を置き、貴社が、コロナウイルスによってもたらされるリスクに対処し、リスクを軽減し、適切に守られ情報を得られるようにサポートする。
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