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代替的調製:販売承認システムに対する大きな脅威
EUおよび国際規則は、「補完的な」調製のみを認めている
EUおよびスイスの薬事法では、販売承認(“MA”)が付与されるまで、医薬品を市場に流通させることはできない。しかし、このようなMA要件は、薬局で例外的に調製された製品には必ずしも適用されない。EU法では、これらの例外は、EU指令2001/83 / ECの第3条で、formula magistralis(「個別の患者のための処方箋に従った薬局での調製」)およびformula officinalis(「薬局方の処方に従った薬局での調製」でありかつ「患者に対し当該薬局から直接供給されることを意図されたもの」)として規定されている。スイスの場合、スイス医薬品法(TPA)に、該当する規定がある(Art. 9, para. 2, lit. a and b)。
これらの規定は、公衆衛生を保護するために確立された原則を示す法律に対して、例外を定めるその他のEUおよびスイスの規定と同様に、当然狭く解釈されなければならない。しかし、これらの規定の射程はしばしば誤解を招きやすい。指令2001/83 / EC第3条は、特定の製品が指令2001/83 / ECによって規制されるかどうか(つまり、特定の製品を市場に流通させる前にMAが必要かどうか)のみを規定する。したがって、同条は、薬局での調製が適法か否かという問題に対して明確な回答を提示できない。スイスの医薬品規制についても同じことが言える。
調製に関わる薬局(または薬剤師)の行為が適法か否かという問題は、各国法を確認する必要があるが、各国法はさらに欧州薬局方(“EP”)に関する基本条約(“基本条約”、Convention on the Elaboration of a European Pharmacopoeia, ETS No. 050)に基づき制定された一連のルールに準拠しなければならない。基本条約は、適用されるべき「モノグラフ」(医薬品各条)を提供し、これらはそれぞれの加盟国において「適用されるべき公的基準となる」。基本条約には、現在スイスを含む38の加盟国があり、EUも基本条約に拘束される。また、米国、日本および世界保健機関(WHO)を含む数十の国と組織が「オブザーバー」としてEPの手続きを追っている。700人を超える専門家のネットワークが、約3,000のモノグラフおよび総合モノグラフその他の文書の公表に貢献している。
ここで重要なEPのモノグラフは、「医薬品の調製」(No. 04/2019:2619 ”Pharmaceutical Preparations”)というものである。同モノグラフは、「個別の患者のため特別な必要性を満たすために未承認製品の供給を可能にすること」(たとえば、MAを取得した医薬品が市場でまったく入手できない場合、患者が賦形剤に耐えられない場合、または飲み込むことができない場合など)に資することを理由に、薬局での(補完的な)調製を認めるものである。さらに基本条約の閣僚委員会は、「患者の特別な必要性のために薬局で調製された医薬品の品質および安全性保証要件に関する決議」(“Resolution CM/Res(2016)1 on quality and safety assurance requirements for medicinal products prepared in pharmacies for the special needs of patients (succeeding Resolution CM/ResAP(2011)1)”)を採択した。同決議は、EPの38の 全加盟国に対し、薬局での調製は、「医学的、薬学的または個人的の理由のため、特別な必要性を持った特定の患者または人種の需要を満たすために必要」である場合に限りその付加価値が認められるものであり、「販売承認を取得した適切で同等な医薬品が入手可能な場合は、推奨されるものではない」ことを呼び掛けている。
明らかに、これらのすべての規定は、調製行為は、MAを取得した医薬品を補完するために行われるのであって、MAを取得した医薬品の代替として行われるものではないことを念頭においている。
大きな変動
EP規則は、明確に定義され管理されたプロセス内で製造されかつ上市前に国の管轄当局によって評価を受けたMAを取得した医薬品は、一般または院内の薬局内で小規模に調製された製品よりも安全であるという一般原則を維持している。さらに、EP規則は、製薬会社がMA(および償還)の取得に成功した場合、個別の患者が個人的、医学的理由で承認を取得した製品を使用できない例外的な状況でない限り、薬局内で製品を複製されないという何十年にもわたる信頼を確認していた。
しかしその信頼は、昨年オランダで始まった一部の動きによって侵食されはじめた。2018年4月、アムステルダムメディカルセンター病院は、主要な国民保険会社と協力して、「代替的調製」品を国内市場に投入し、ある希少疾病(“CTX”、脳腱黄色腫症)に罹患した同国の全患者に対し、純粋に費用上の理由から、同調製品への切り替えを行うという大規模な試みを行った。その結果、MAを取得した希少疾患薬の売上高はほぼ失われた。この「代替的調製」に使われた仕組みは、2018年11月19日のオランダの保健当局(“IGJ”、Dutch Health and Youth Care Inspectorate)の決定により容認され、2019年8月13日の医療大臣の決定により承認された。国内のすべての希少疾病患者が唯一の中央薬局に送られることを認めた。これらの決定には意義が申し立てられているが、現在の同国の政策を反映している。
CTX製品の代替的調製は2018年8月に一時的に停止されたが、これは、1995年の中国のモノグラフに従って製造された中国由来の原薬がEPに従って製造されていないことをIGJが確認し、同成分が不安定でかつ8倍から10倍の未知の不純物を含んでいることが判明したことによる。IGJは、当該原薬が同薬局によって使用されていることにより患者の健康が危険にさらされると述べた。しかし、このことが、オランダ政府の代替的調製に対する強い支持表明をやめさせることはなかった。ベルギーにおいても国内規模での代替的調製が行われていたが、「微小の不純物を含む型の薬を容認するために、原材料が適合しなければならない要件を修正する」のための努力が行われていると報告されている。(https://www.theguardian.com/science/2019/oct/15/diy-drugs-should-hospitals-make-their-own-medicine 参照)。(注1)
代替的調製の拡大が予想されている。政府方針の変更により扉は開かれ、より多くの加盟国が後に続くと予想されている。更に、代替の「標的」を示す複数の一覧表も公開されている。
スイスは例外か?
2010年10月、調製医薬品の良好な品質を確保するために、スイス医薬品法はformula magistralisおよびformula officinalisによる少量のバッチでの製造を認める改正をした。さらに、病院の要求に応じ、スイス議会は、院内薬局が自己の患者向けに特定の医薬品を製造することを認めるformula hospitalis(Art. 9, para. 2, lit. cbis TPA)を制定した。ただし、これが認められるのは、MAを取得した代替品が国内市場には存在しない場合に限ると明記されている。
このことから、formula hospitalisによる製品はMAを取得した製品の代替として使用できないことが明らかであると思われる。しかしながら、同じ論法を用いて、スイス医薬品法が、formula magistralisおよびformula officinalisの枠組みの中で製造された製品に対しては類似の制限を規定していないということを論じることが可能かもしれない。この見解は、最近改正されたスイス医薬品令(Ordinance on Medicinal Products)が、草案が公表された段階では、formula magistralisおよびformula officinalisによる製品の製造の禁止条項を含んでいた事実によっても裏付けられる(結局スイス医薬品令の最終版には禁止規定は盛り込まれなかった)。これらの議論にもかかわらず、スイス医薬品法第8条が明示的に規定する通り、EPは、スイスの医薬品規制の不可欠な部分である。したがって、MAを取得した医薬品の代替的調製に関するEPの規制は、EUと同様にスイスでも有効である。
(注1) 参考NZZ am Sonntagの背景記事(ドイツ語)
https://nzzas.nzz.ch/wirtschaft/gefaehrliche-medikamente-marke-eigenbau-ld.1508747?reduced=true
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