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透明性 対 営業秘密(CCI)の保護―EU裁判所の新しい章
欧州での医薬品をめぐる法律問題の論争は続く。今回は、2019年9月11日の2つの判決(C-175/18P PTC Therapeutics v. EMA および C-178/18P MSD Animal Health Innovation GmbH (Intervet) v. EMA)に対する、ホーガン法務官(Advocate-General Gerard Hogan)による情報開示に関する有力な見解について。ホーガン法務官は、(a)秘匿性について一般的な推定は働かない、(b)承認申請書に含まれる試験報告書の開示は申請者の商業的な利益を損なうことはない、とした欧州第一審裁判所の法的判断は誤りであると意見した。この欧州での展開は、医療製品に関するスイスの監督当局(Swissmedic)へ提出された販売承認書に対する情報公開請求についてのスイス情報公開法の解釈にも影響を与える可能性がある。
本件は、2018年2月5日欧州第一審裁判所判決への反論である。欧州第一審裁判所は、欧州医薬品庁(EMA)の主張を支持して、透明性規制(Transparency Regulation (1049/2001))およびEMAポリシー43(EMA Policy 43: Policy on Access to Documents)の下での公開免除が認められる情報について非常に制限的な立場をとったうえで、以下の通り判示していた:
(a) TRIPS協定第39条(2)および(3)は、販売承認申請書に含まれる情報の秘匿性について一般的な推定を設けていない。
(b) 当該情報が発明戦略を反映したものであり営業秘密(commercial confidential informationまたはCCI。)としての保護を受けるだけの付加的な価値を持つことを示す更なる証拠の提出が必要である。
(c) EMAが情報公開の例外の適用を決定したときに限り、文書の公開による最優先の公共の利益を示して二つの対立する利益の比較衡量する必要性が生じる。
このようにして、欧州第一審裁判所は、開示を防ごうとする企業の証明水準を引き上げ、開示による損害についての現実の特定した証拠の提示を求めた。欧州第一審裁判所は、営業秘密(CCI)のスコープから新規でなく他の公開情報から推定されうるすべての情報を除外した。
同様の情報公開が、Swissmedicに対して請求され、販売承認取得関係者から提訴されたが、スイス連邦行政裁判所およびスイス最高裁判所は、欧州第一審裁判所と同じスタンスをとる(ただし、欧州第一審裁判所の判断を明示に参照はしていない)。
これらの裁判例とホーガン法務官の見解は見過ごしてはならない。近年の判例法は営業秘密(CCI)を浸食し極端に制限的に解する傾向にある中で、ホーガン法務官の見解は、法によって私企業が与えられる例外についての欧州第一審裁判所の解釈に疑問を呈するものである。重要なのは、両者は、欧州経済領域(EEA)外で情報開示が悪用されるなど、基礎的な商業データの保護が不十分であるかもしれない場合に、営業秘密(CCI)の例外の適用可能性があると認識していることだ。さらに、情報の秘匿性について一般的な推定を認めることは、差し止めの権利を企業に付与することになり、裁判所は、営業秘密(CCI)保護の請求を自動的には棄却できず、事案と事実の利益状況を注視しなければならなくなる。
ある情報が企業にとって高い価値を有する場合、当該情報の保護が日々重要性を有する。欧州司法裁判所(Court of Justice)がホーガン法務官の意見に従い欧州第一審裁判所判決を破棄するか、あるいは(ホーガン法務官の見解が示すように複雑な事実関係を再審理するため)欧州第一審裁判所に差し戻すかにより、欧州の法理が営業秘密(CCI)の例外の適用の場面で、ホーガン法務官の懸念を理解し、イノヴェーションを推進する企業から長く表明されてきた見解を採用することが期待されており、スイス裁判所もこれに従うことを期待されている。このことは、Swissmedicが、営業秘密(CCI)が懸念される場合には臨床試験結果の開示を拒否する以前のポリシーを継続できることを意味する。
同一の問題に関する別の訴訟が係属中である(T-377/18 Intercept Pharmaceuticals v. EMA)。