背景
本件は、PTC Therapeutics(”PTC社”。C‑175 / 18 P)およびMSD Animal Health and Intervet(”MSD社”。C‑178 / 18 P)の長期にわたる訴訟の最後の判断である。一括審理された2つの訴訟で、申立人は、開示請求に対するEMAの方針を争った。これらの訴訟は、一つはPTC社の超希少疾患薬Translarnaの販売承認申請のために提出された臨床試験報告書(CSR)の開示、もう一つはMSD社の動物薬に関する5つの前臨床の毒性試験報告書の開示をそれぞれ求める第三者の要求に関するものだった。
判決前に取り下げられたものもあるが、これまでEMAの文書開示決定の取消を求める多数の類似訴訟が一般裁判所(General Court)に提起されてきた(Intermune、Abbvie、Pari Pharma、Amicus Therapeutics)。一般裁判所は繰り返し、透明性規制の下では、同規制の規定するごくわずかな例外に該当しない限りそれらのデータはすべて原則開示可能であるとし、これらの例外でさえ、開示の利益に資するため「他のすべてに優先する公共の(または個人的)利益」の存在を条件とする。事実上、一般裁判所は、EMAが保持するデータの積極開示にも応答開示にも同じ態度をとり、臨床データへのアクセスの増加に対応する。しかし驚くべきことに、ジェラルド・ホーガン法務官(Advocate-General)は、もし不公正な商業的使用からの保護を意味するのであれば、基礎となるデータの高い商業的および財産的価値は、このデータの開示を差し控えるべきであることを意味するとの考えを示した。
判決と意義
CJEUは、透明性規制がEU機関の保有する文書への幅広いアクセス権を提供することを改めて強調し、例えば営業秘密(confidential commercial information(CCI))に該当する情報などアクセス権に対する例外があっても「厳格に解釈および適用」されなければならず、公共の(または個人的)利益を条件とするとした。ここでCJEUが、これら文書には、もし開示されれば企業の商業的利益を毀損しうる情報が含まれる可能性があることを排除していない点を強調することは重要である。しかし、データの所有者は、データ開示が企業の商業的利益を毀損することを「単に仮説的」ではなく「具体的かつ合理的に予見可能な」リスクとして特定することで、当該情報がCCIであると示さなければならない。幸い、裁判所はいずれの判決でも、傍論ではあるが、「深刻な」価値の毀損を示す必要はなく、影響を受ける当事者がいかなる程度の損害であってもその可能性を示すことで十分であるとした。
この判決は、オンブズマンの決定に沿って文書の広範な開示をするEMAの方針を支持する強い圧力を受けて出されたものだ。2019年9月11日に表明されたホーガン法務官意見を受け、医薬品承認手続きの開放性を支持する(ドイツの医療技術評価機関IQWiGおよび非営利団体European Public Health Allianceを含む)30以上の組織が署名して、透明性ポリシーの「骨抜き」を警鐘し、むしろ臨床試験報告書への公開アクセスを許可すべきとする公開状が出された。そのうえ、さらなる臨床試験データの透明性義務を課す臨床試験規制の施行が予定されている。
製薬業界は、欧州機関が適切に機能するための支持原則として透明性を受け入れているが、重要な商業データに対する幅広いアクセスの及ぼす商業的および戦略的な意味合いは無視できない。製薬会社は、販売承認申請のために提出する包括的データを提供することを保証する一方、価値の高いノウハウを守る最善の手段を検討しなければならない。