フタル酸エステル類のMDR規制
フタル酸エステルは、プラスチックの柔軟性と強靭性を高めるポリマーの可塑剤として医療機器業界で広く使用されている。可塑剤として使用される場合、フタル酸エステルは医療機器のかなりの部分を占める場合がある。 MDRは、カテゴリー1Aおよび1BのCMR物質および人間の健康への重大な影響の可能性が科学的に証明されているED物質(以上総称してCMRまたはEDフタル酸エステル)の特定の医療機器における使用に関して、CMRまたはEDフタル酸エステルの濃度が0.1重量パーセント(w/w)よりも高い場合、当該物質が医療機器から環境または人体に放出される可能性があるとして規制する。フタル酸エステルの規制は、その部品および材料を含む次の医療機器(対象医療機器)に適用される。
(i) 侵襲的であり、人体に直接接触する医療機器;
(ii) 薬剤、体液または気体を含むその他の物質を人体へまたは人体から(再)投与する医療機器;
(iii) 人体に(再)投与される薬剤、体液または気体を含む物質を輸送または保管する医療機器。
対象医療機器については、CMRまたはEDフタル酸エステルが0.1%w/wを超える場合には、正当な理由が認められるときにのみ使用が許可される。
正当化要件は、CMRまたはEDフタル酸エステル含有量が0.1%w / wを超えない医療機器には適用されない。ただし、これらの医療機器も、当該医療機器から放出される可能性のある物質または粒子によってもたらされるリスクを可能な限り減らすよう設計および製造されなければならないという一般的な要件に従わなければならない。
利益リスク評価に関するガイドライン
当該正当化要件(含有量が0.1%w/wを超える場合の)の一環として、CMRまたはEDフタル酸エステル自体のリスクだけではなく、使用可能性のある代替品が、当該医療機器の機能性、性能および全体的なリスクベネフィットレシオに対して及ぼす影響も評価しなければならない。
つまり、製造業者は、CMRまたはEDフタル酸エステルを0.1%w/wを超えて使用する前に、当該医療機器の機能性、性能、およびリスクベネフィットレシオを維持するためには、使用可能性のある代替品は不適切であることを適切な科学的根拠に基づいて示す必要がある。
本ガイドラインは、医療機器がCMRまたはEDフタル酸エステルを0.1%w/wを超えて含有することを正当化するために、当該リスクベネフィット評価をどのように実施すべきかについての詳細な要件を定める。本ガイドラインは、とりわけ、当該評価は、特に材料科学者、医療機器専門家、毒性学者、臨床医などを含む「学際的なチーム」によって実施されるべきであるとする。
本ガイドラインは、CMRまたはEDフタル酸エステルの使用可能性のある代替品の評価についても記載し、対象医療機器が含有するCMRまたはEDフタル酸エステルの存在を評価する10段階の手順を示す。「代替品」という用語は、医療機器の含有するCMRまたはED物質の使用に代替使用可能な物質、材料、設計および医療処置として定義されている。その結果、代替品とは物質や材料に限定されず、新しい機器設計(例:生産工程)、医療処置(例:手順)またはこれらの組み合わせも含まれる。本ガイドラインは、使用可能性のある代替品の機能と性能は、当該医療機器の性能においてまたは当該代替医療処置のアウトカムにおいて臨床関連の差異が予見されない限り、交換するCMRまたはEDフタル酸エステルに匹敵するべきであるとする。
本ガイドラインに記載されている段階的なアプローチは、概要次の通り。
- 医療機器が含有するフタル酸エステルの存在の評価(ステップ1〜3)
- 代替使用可能な物質、材料、設計または医療処置の評価(ステップ4〜7)
- CMRまたはEDフタル酸エステルに対比した、関連する代替使用可能な物質、材料、設計または医療処置の評価(ステップ8〜10)
本ガイドラインは、製造業者、通知機関および規制当局等の利害関係者を対象とする。 MDRは、本ガイドラインは最新の科学的証拠に基づいて適切であるとされた場合に更新されることを求め、少なくとも5年ごとに見直されるとする。
本ガイドラインは、2020年5月26日から適用されるMDRに照らして作成され、採択された。フタル酸エステル(または他のCMRまたはED物質)を含有する医療機器をEU市場に流通または上市しようとする企業は、この新しい要件が、どのように自らの業務に影響するのか、そして文書化の更新が必要か否かについて気になるところであろう。この新しい要件は、医療機器製造業者が新しい規則への円滑な移行を確保し供給の中断を回避するための重要な追加的作業を示す可能性がある。